いよいよ今シーズンのメインイベント・・・全日本選手権SUGO大会になります。 2週間前に一日だけ行った練習では、中古タイヤながら練習終了間際に1分36秒台の後半をマークし、いよいよ自己ベストの35秒台への手応えは十分です。 ライダーの調子は決して悪くありません。 あとタイムを削り取る要素としては、次元の違う走りを見せる全日本トップランカーの走りを間近でみて、それをどれだけ吸収できるか、全日本独特の華やかな雰囲気をどれだけ楽しめるか、そして今回考えて考え抜いた秘策のミッション(ギア比)・セッティング。 先日の練習でどうしてもエンジン回転数をキープできない2速をショートに振った仕様です。 過去SUGOを走ってきて、この2速ギアをショートに振って良い結果を得ることはありませんでした。 2速をショートにすると、1コーナーでエンジンブレーキがかかりすぎてしまい、無意識のうちにリズムが狂って、それが1周全体のリズムを狂わします。 しかしあえて今回、この一見リスキーなトライに再度挑戦します。 理由は
の3点となります。 これでどうしても1コーナーのリズムが取れないようなら、現場でセッティングを元に戻す予定です。 できればレースウィーク前にこのセッティングを試しておきたかったのですが、時間がなかったので、金曜の最初の練習でこいつを試すわけです。 もともとSUGOをホームコースとしている自分ですが、自己ベストタイム的には1分36秒1という、全日本ライダーというには今ひとつ物足りないタイムしか出ていません。 しかしあと1秒ちょっと縮めて34秒台に入れば、一気に15位以内、全日本選手権のポイント獲得が見えてきます。 あと1秒ちょっと。 すべての条件がかみ合えば決して不可能な領域ではないと密かに思っています。 <公式練習> いよいよ1年ぶりの全日本を走ります。 前日まで心配されていた雨は上がり、路面は完全ドライコンディション。 レースウィーク初日からテンションを上げるために新品タイヤを装着してコースインです。 コースイン直後から緊張で体が硬くなっているのを自覚します。 (今日は調子いい、悪くない、絶対に調子がいい) 自分にそう言い聞かせて周回を重ねます。 そう言い聞かせながらも、やはり心配していたとおり1コーナーのリズムが乗ってきません。 (やっぱりミッション・セッティング外したか?次は元に戻して走ろう) そんなことを考えながら、しばらくしてSUGOのエリア選手権で幾度となく後塵を拝してきた藤田選手の後ろにつけます。 藤田選手は34秒台をマークする速いライダーですが、この日はどうもペースが上がってきません。 藤田選手の後ろで37秒台の周回が続きます。 (どうした藤田?このまま35秒台くらいまで連れてってくれ!) しばらく様子をみているのですが、藤田選手のペースが上がる気配が全くありません。 (このまま37秒で終わったら、ちょっと精神的に追い詰められる) (この1本目の練習では、なんとしてでも36秒台を飛び越えて35秒台に入れておかないと、本番で34秒台が見えてこない!) そこで一旦ペースを落として、藤田選手との間合いを取ります。 バックストレートで後ろを振り返って誰も来ていないこと確認して、再度アタックラインに戻り、次の周でのタイムアタックに備えます。 とりあえず前方はクリア、問題の1コーナーは相変わらずリズムがうまく取れないものの、できるだけスピードを殺さないように進入。 1コーナーで乗ってこないリズムがそのまま、2コーナー、3コーナーのリズムを狂わしているのを実感しながら、タイムアタックを続行します。 (ちっ、やっぱり今一乗れていない。これだと36秒台出れば御の字か・・・?) (いずれにしろ、今回のセッティングは、後半セクションでタイムを稼ぐ為のセッティング!馬の背コーナーから思いっきりスピードに乗せてタイムを稼いでやる!) バックストレートを全開で駆け下りながら、後半セクションのスタート地点である馬の背コーナーに進入する。 馬の背コーナーを立ち上がるとその先はSPインコーナー。 ここもさっきまで今ひとつ倒しこみが決まらなかったポイントです。 (倒しこみがうまく決まらないなら、せめて立ち上がりでアクセルを開けないと・・・) そんなことを考えながら、さっきよりも深くバイクを倒しこみながらアクセルを大きく開けた・・・次の瞬間・・・・。 何か悪い夢を見ているようです。 今まさに、自分の手元でバイクが完全にコントロールを失っている。 どう踏ん張っても立ち直ることができない、取り返しのつかない状態に自分とバイクが陥ってしまっていることは本能的に察することができます。 3速で回る高速コーナーでのハイサイド。 暴れまわるバイクから放り出された体とその頭は、その滞空時間が長いがゆえに落下地点を見極めようとします。 (このままアスファルトに落下したらとんでもない大怪我になるだろう。運良く芝生まで飛んでいけたら骨折は免れるかな。でもどちらにしろバイクはもうダメか。ここで俺の全日本はもう終わっちまった。) 体が空中を舞っていた時間はおそらく1秒前後だと思います。 でも人間、極限状態になるとこのくらいの時間でもこのくらいのことを考えてしまうものなのです。 そして一旦、体が地面に落下すると、永遠に続くような断続的な衝撃に襲われることになります。 体のどこの部分にどんな衝撃が起きているかもわからないが、とにかく衝撃が止まるのを祈るよな気持ちで待つのです。 全ての衝撃が止んでちょっとだけ考えてみました。 落下地点はどうだっただろう。 放り出されて空中を舞っているときに、アスファルトと芝生の両方が視界にはあった。 でも芝生には届かなかったようにも思える。 ヘルメットの中は「ハア、ハア」と自分の吐く息の音だけが聞こえる。 (立てるか?) (ダメだ。腰のあたりが痛くて自力では立てない。) (まあ、このまま寝てたら救急車が来てくれるだろう) (それにしても、こんなところで俺のレースは終わるのかあ・・・締まらねー終わり方だなあ・・・) タンカに乗せられるところは覚えているのですが、救急車にのっているところは覚えていません。 次の記憶は医務室で、今回のメカニックの間々田君と嫁さんに声をかけられるところあたりからです。 どうやら大きな骨折はしてないようですが、右手首と右足の付け根あたりに傷みを感じます。 でもそのくらいです。 しばらく安静にしたあと、なんとか自力で立って、ゆっくりならば歩けることが確認できます。 (体はもしかしたらまだいけるかもしれない。でもバイクは???) 医務室をでてしばらく歩くと、変わり果てた自分のバイクと対面です。 泥まみれでボロボロ。 でも一見したところ致命的な損傷はなさそうです。 とりあえず体がどうなるかわかりませんが、バイクは明日の予選に備えて修復できるところまで修復して判断するしかありません。 まずは泥だらけのバイクをホースで洗車し、大きな部品をひとつひとつ取り外し、そのひとつひとつの部品を洗浄しながら、損傷状態を確認していきます。 やはり、あれだけの転倒をした割にはバイクは軽症といえるかもしれません。 分解した部品を洗浄し、再度組み上げていく作業は夜の21時近くまでかかり、バイクは大方原型を取り戻してきました。 バイクのほうで目処が立ってくると、今度は体のほうが気になり始めます。 夕方ころに仕込んだ座薬が効いているせいか、バイクの修復に夢中になっている間は気づかなかった痛みは、いざ気にしだすとやはり相当のものです。 当初傷みの激しかった右足の付け根部分はさほどではないのですが、右手首の痛さが致命的に思えてきます。 右手はアクセルとブレーキという、非常に重要な操作をするのに加え、200キロ以上からのブレーキング時には、その減速Gから体を支えなくてはなりません。 このダメージを受けている右手で、それらの動作を行う自信はありませんでした。 バイクのほうも改めて確認すると、フロントサスペンションの動きが非常に渋いことも発見され、ここに来て人車ともに修復できないダメージがあることが確認され、明日の予選をリタイヤする決断をすることになります。 今回のレースを走りきって、レースを引退するつもりでいました。 成績が良くても悪くても、これで終わりにしようと決めていました。 でも今はこのまま引退すべきか否か悩んでいます。 自分が走っていたであろう決勝レースを、金網の外から眺めながら、来年もう一度この場所に戻ってきて、今年走りそこねた最後のレースを走って終わりにしたいという気持ちが抑えられなくなっています。 いずれにしても僕の2003年シーズンはこのレースをもって終了します。 2004年シーズンも自分が走っているかどうかは、これからじっくり考えていきたいと思います。 最後に駒津先生、今年は応援どうもありがとうございました。 ・・・NEXT・・・ Copyright (C) 2000 駒津歯科医院 All rights reserved. |